メーカー「3か月で日本に届きます」
私「では、顧客には4か月半と回答します」
なぜ1か月半も違うのか。
それは、この製品を何度も輸入してきた結果です。
私は普段、海外から化学品を輸入する仕事をしています。
海外調達というと、メーカーを探して、価格を交渉して、注文して、船で日本まで運ぶ。
文字にすると、わりと簡単です。そして、一度仕入先が決まり、何度も買っている製品なら、
「次からは楽になるだろう」と思います。私もそう思いたいです。
ところが、何度買っても、なぜか毎回イベントが発生する製品があります。
今回紹介するのは、インドから定期的に輸入している、ある化学品です。
価格は毎回変わる。納期は読めない。品質も、前回と同じとは限らない。
何度も取引しているのに、「いつものようにお願いします」の一言で終わった記憶がほとんどありません。
今回は、そんな製品を手配する中で感じている、海外調達の難しさについて書いてみます。
※詳細情報は、一部変更・省略しています。
値上げの理由は、いつも「原料価格」
まず悩まされるのが価格です。
同じメーカーから同じ製品を買っているのですが、見積を取るたびに価格が変わります。
そして値上げの理由としてよく登場するのが、
「原料価格が上がったから」。
化学品ですから、これは別におかしな話ではありません。
原料相場が上がれば、製品価格も上がります。
問題は、「では、原料はいくら上がったの?」と聞いた後です。
「原料メーカーから値上げを言われている」
「最近、原料が高い」
といった説明は出てくるのですが、具体的にどの程度上がり、
それが製品価格にどの程度影響しているのかとなると、よく分かりません。
メーカー自身も原料メーカーから言われた価格で購入しているため、
詳しい背景までは把握していないことがあります。
こちらでも調べたいところですが、日本からインド国内の細かな原料市況を把握するのは簡単ではありません。
結局、「本当にそんなに上がっているのかな……」
と思いながら価格交渉していることも多々。顧客にもなかなか納得してもらえません。
「3か月で届く」を、私は4か月半で考える
価格以上に難しいのが納期です。
この製品は通常在庫品ではなく、注文を受けてから製造する特注品です。
発注すると、まずメーカーが原料を手配します。
原料が入ったら生産。製品が完成したら船を手配。そして日本へ輸送します。
メーカーの感覚では、注文から日本到着までおよそ3か月です。
ところが、私は顧客に3か月とは回答しません。4か月半程度を見ます。
なぜ1か月半も増えるのか。
原料が遅れる。
生産が後ろにずれる。
予約していた船がキャンセルされる。
次の船に振り替えられる。
船そのものが遅れる。
一つひとつは小さなずれでも、積み重なるとなかなかのものです。
メーカーの言う「3か月」は、私の中では、
「奇跡的にすべてが順調に進んだ場合のシナリオ」です。
実際、直近の手配では中東情勢の影響もあって海上輸送が大幅に遅れ、
注文から日本到着まで5か月以上かかりました。
顧客にはただただ平謝りです。メーカーはまだ到着していないのに次の注文の催促をしてきます。
3か月が4か月半になり、ついには5か月を超える。
海外調達をしていると、カレンダーを見る回数は確実に増えます。
だんだん日付と曜日を覚えてしまいます。。。
船を予約しても、まだ納期は決まらない
製品が完成すると、メーカーが日本向けの船をブッキングします。
「○日の船を予約した。日本には○日頃に到着する予定」
ここまで来ると、普通なら少し安心します。
私は全く安心しません。
国際輸送では、予約していた船が予定していた港への寄港を取りやめる「抜港」が発生することがあります。
当然、その船には製品を載せられません。次の便を手配することになります。
それ自体は仕方ありません。
困るのは、その変更について必ずしも連絡が来ないことです。
「そろそろ積んだかな?」
と思ってこちらから確認しても返事が無く、いつの間にか次の便が手配され、
新しいスケジュールになっていることがあります。
メーカーからは船が変わったという言及無く「出航したよ、あとよろしく」って返事が来ます。
メーカーからすれば、
「船会社の都合で抜港になった」
「だから次の船を手配した」
「ちゃんと対応している」
ということなのでしょう。
確かに間違ってはいません。
以前、船が大幅に遅れたときには、
「我々は頑張って生産を早めたのに、なぜ船の遅延について責められなければならないのか」
という趣旨のことを言われたこともあります。
言いたいことは分かります。船を動かしているのはメーカーではありません。
こちらも「船を遅らせるな」と言っているわけではありません。
船を手配したのはそちらなのだから、予定が変わったら教えてほしい。
それだけなのです。
日本側では、その情報をもとに顧客への納期を調整しなければなりません。
メーカーから納期を聞くことと、顧客に納期を回答することは、実は同じ仕事ではないのです。
同じ「納期」でも、見ている時間が違う
ここまで読むと、「インド企業って時間にルーズなの?」と思われるかもしれません。
そこは少し違うように感じています。
もちろん、すべてのインド企業がそうだという話ではありません。
あくまで私自身や周囲の限られた取引経験での話です。
ただ、インド企業との取引では、時間を少し楽観的に考える傾向を感じることがあります。
仕入先としては、
「順調にいけば、このくらいで出来るだろう」。
一方、インド企業が顧客になると、
「頑張れば、この日までに出来るだろう」と、
かなり厳しいスケジュールを要求されることがある、という話も耳にします。
正反対に見えますが、どちらも、
「自分にとって望ましい方向に、時間を楽観的に考える」
という点では似ているのかもしれません。
「3か月です」と言われたら、
「なるほど。では、その3か月の内訳を教えてください」
からが本当の納期確認です。
納期だけなら、まだよかった
さて、ここまででも十分なのですが、この製品にはもう一つあります。
品質です。
現在、この製品は完成したらそのまま日本へ出荷するのではなく、まずメーカーから先行サンプルを送ってもらいます。
日本側で評価し、問題がないことを確認してから本製品を出荷します。
なぜそんな面倒なことをしているのか。
過去に、以前とは明らかに品質の異なる製品が出来上がったことがあるからです。
当時は、顧客納入後に品質異常が発覚。当然メーカーに確認しました。
「原料を変えていないか」
「設備を変えていないか」
「製造条件を変えていないか」
回答は、
「何も変更していない」。
「うちでの分析では従来同等の結果が出ている」
困りました。
何か変えて品質が変わったのであれば、その何かを管理すればいい。
何も変えていないのに品質だけ変わったと言われると、
こちらとしては対策のしようがありません。
そこで、顧客が正しいのか、メーカーが正しいのか、お互いに言っている内容の証拠集めを
進めていくことになります。
化学品を扱っているはずなのですが、
だんだん探偵や弁護士のようになってきます。
2回精製して、なぜ数字が変わらない?
先行サンプルで問題が見つかった際、品質を改善するため、
メーカーと協議して追加精製を行ったことがあります。
一度精製し改善が不十分だったため、追加精製を2回行いました、という説明を受けました。
しかし、最終的な品質データはやはりほとんど変わりませんでした。
それだけなら、「この方法では改善できなかったのかな」で終わる話です。
ところが、もう一つ気になる数字がありました。製品の出来高です。
この製品は決められた荷姿単位で購入しており、製造時に発生する端数は購入しません。
多少のロスであれば端数の範囲内に収まりますが、
それを超えれば、満量にできる荷姿が一つ減ることになります。
そして、追加精製前の端数がどの程度だったかは把握していました。
追加精製を2回実施。品質はほとんど変わらない。
そして、購入できる製品数量も変わらない。
……さて。どういうことなのでしょう。
当然、メーカーにも確認しました。しかし、メーカーからは、
「2回追加精製した、品質は問題ないはずだ。何を言っているのか分からない」と。
最後まで納得できる説明は得られませんでした。
実際の作業をその場で見たわけではありません。そのため、
「実際には○○だったのではないか」
とこちらから断定することはできません。
ただ、説明された工程と、その結果として出てきた数字がつながらない。
これは品質を管理する側として非常に困ります。
トラブルが発生すると、色々な資料とにらめっこしながら、まさに探偵のようです。
品質トラブルより、原因不明の方が怖い
化学品の製造で品質問題を完全になくすことはできません。
むしろ大切なのは、問題が起きた後です。
原因が分かれば対策できます。
原料が原因なら原料を管理する。
製造条件が原因なら条件を管理する。
設備が原因なら設備を確認する。
しかし、
「何も変えていない」
「追加精製したけどデータはほとんど変わらない」
となると、次回何を管理すればいいのか分かりません。
実際、メーカーの工場にも訪問しました。
ただ、この製品は常時製造しているものではありません。
訪問したときには製造しておらず、設備や分析について確認しても、
「製造するときに準備するので今は確認できない。次回は気を付ける」
という話で終わってしまいました。
「次回は気を付ける」。
便利な言葉です。
しかし、それだけで先行サンプルをなくす勇気は、残念ながら私にはありません。
こうして、この製品では今でも毎回先行サンプルを確認しています。
品質問題そのものより、
何が起きたのか分からなかったことの方が、その後の手配に長く影響しています。
メールでは見えないものを見に行く
こうした経験から感じるのが、現地を見ることの重要性です。
メールやWeb会議で、詳細説明を聞くことはできます。
しかし、本当に知りたいのはその先です。
どんな設備で作っているのか。
原料をどう管理しているのか。
製造時にどんな記録を残しているのか。
品質に問題があったとき、どこまで原因を追跡できるのか。
これらは、資料やWeb会議だけでは分からないことがあります。
今回のような受注生産品なら、本当は実際に製造しているタイミングで現場を確認するのが理想なのでしょう。
海外出張というと観光地の写真を想像されるかもしれませんが、
実際には、工場で製造記録を確認している時間+移動、がほとんどです。
「なぜそこまで必要なのか」を伝える
そして、もう一つ大切なのが、こちらの事情をメーカーに理解してもらうことです。
日本の顧客に、「メーカーは次回から気を付けると言っています」
と説明しても、それだけではなかなか納得してもらえません。
何が起きたのか。
なぜ起きたのか。
何を確認したのか。
どんな対策をしたのか。
次回はどう防ぐのか。
かなり細かい説明を求められることがあります。
メーカーからすると、
「規格に合ったものを次回作ればいいじゃないか」
と思うかもしれません。
だからこそ、
「私たちが細かいことを聞きたいからではない」
「日本の顧客に納得してもらい、この取引を続けるために必要なのだ」
というところまで説明する必要があります。
そして、通常以上の対応を求めるのであれば、
メーカー側にも協力するメリットを感じてもらわなければ長続きしません。
これはインドに限った話ではありません。
取引では、一方的に「管理する」よりも、
一緒に、協力して、顧客を納得させる側に立ってもらう。
そんな関係を作る方が、結果的にはうまくいくように感じています。
「大丈夫」を、そのまま信じない仕事
今回の話は、新しく見つけてきた製品ではありません。
何度も取引している製品です。
それでも毎回、
価格を確認する。
原料と生産予定を追いかける。
船を確認する。
先行サンプルで品質を確認する。
品質に問題があれば原因を確認し、分からなければ次回もまた確認する。
海外調達というと、
「海外から安い製品を見つけて、日本へ持ってくる仕事」
と思われることがあります。
もちろん、それも仕事の一部です。
しかし実際には、価格、納期、品質、それぞれにある不確実性を一つずつ拾いながら、
海外メーカーと日本の顧客の間をつないでいく仕事でもあります。
メーカーから「大丈夫」と言われたからといって、
そのまま顧客に「大丈夫です」と伝えるわけにはいきません。
メーカーが言う「大丈夫」を、日本の顧客に対しても「大丈夫」と言える状態にする。
そのために確認し、追いかけ、疑問があれば聞き、必要なら現地まで見に行く。
何度も買っている製品なのに、いつまでも簡単にならない。
でも、海外から化学品を調達する仕事とは、案外こういうものなのかもしれません。
ということで、今回は真面目なお話ですが、
化学品輸入の実情をお伝えさせていただきました。
楽しんでもらえたら幸いです。

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